· 

トレイルズ

 帯で、夢枕獏氏が「実に刺激的な本である。」と書いている。そしてその通り、本書は、アパラチアン・トレイルの「スルーハイク」を達成したロバート・ムーアによる、「どう生きるか」を問う哲学書であった。

 足元に伸びるトレイルに取り付かれた著者は、トレイルとは果たして何であるかを考え出す。そして、アリの作るトレイルを観察したり、初めてトレイルを残したとされる古代生物を追ったり、人間とトレイルの関係を考える中で、羊飼いとなったり、狩猟体験をしたり、チェロキー族のハイカーと行動を共にしたりする。

 やがて、アパラチアン・トレイルを、カナダからさらに延伸してアフリカ大陸にまで繋げる、インターナショナル・アパラチアン・トレイルの構想が持ち上がると、筆者はその現場を見に(歩きに)出かけていく。そうして、道のネットワークから、ワイヤーのネットワーク、現代に張り巡らされたウェブのネットワークについても考察する。

 本書の中での著者の最後の旅は、アメリカの四隅を繋ぐ長大なトレイル「グレート・アメリカン・ループ」を旅する、エバーハートとのハイクになった。筆者は、多くを持たず自由な放浪を続けているエバーハートの中に、中国唐代の僧、寒山の姿を見る。

 

 彼らが自由な人生を生きるために捧げているものは、わたしたちに居心地の悪い疑問を投げかける。わたしたちにとって、何がいちばん大切なのか? エバーハートや寒山にとっての自由と同じくらいに大切にしているものが何かあるのか? そしてそれを得るために、何を犠牲にできるだろう? 犠牲にできないものはなんだろう? そしてそこから、何よりも大切なものについて何がわかるだろう?

 

 人が、道を歩くことの意味を考えさせられる。私たちはどこから来て、どこへ行くのか。・・・それでも、私たちはその未知へと歩き出せばよい。私たちの後には、道(トレイル)ができる。最後は、自分も歩き出そうという勇気をもらえる、自分にとっての大切な一冊になった気がする。