小さな身体のその人は、大きな夕日に向かって跳ぶようにして走っていた。
暑い日差しと、きつい坂とが、彼女を苦しめるけれど、
彼女はぐんぐんスピードを上げて集団を引き離していく。
彼女には誰も、追いつけない。
やがて、あの背の高い人も、力尽きて立ち止まってしまった。
その人は泣いていた。
優勝候補と言われていた彼女にも、アテネのゴールは遠かったのだ。
「強い人が勝つのではなく、勝った人が強いのだ」と誰かが言った。
小さな身体のあの人は、何を思いながらゴールへ向かっていたのだろう。
走る。走る。ただ、ひたすら。自分の力を、自分の積み重ねてきたことを信じて。
彼女の後ろから、ひたひたと迫る人がいる。
がんばれ! ゴールはもう少しだ! がんばれ! 走れ! 走れ!
想像を絶する苛酷なレースを制したのは、小さな身体のその人だった。
アテナイの勇者は、勝利を告げて事切れたという。
小さな身体のその人は、「幸せです」と言って、くしゃくしゃな笑顔で、泣いた。
コメントをお書きください