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何者でもない

 どうして自分は旅に出るんだろう。その理由を考えていた。アルゼンチンの混乱はすぐには治まりそうにもないし、もちろん山は逃げないし、田舎の年老いた両親には心配をかけるだけだし、・・・。理由を見つけようとしていて、そんなものはないような気がしてきた。「自分は、何者でも、ない。」強いて旅に出る理由を挙げるなら、そんなところか。何者でもない自分は、このまま家にいても、何者でもない。かと言って、出かければ何かに変われるかというと、そうでもないことはわかっている。それでもただ、自分らしいことをしてみようと、そう思った。

 今回の旅は、実は怖い。ただでさえ、未知の世界への挑戦なのに、テロ事件の影響のことがあるし、さらに追い打ちをかけるようにしてアルゼンチンで暴動が起こった。何でこんな時に? みんなはそう思うかもしれないけれど、自分の中ではずいぶん前から準備して、(キリマンジャロさえ、このためにあったと言える。)あとはもう、全て自分の責任で、出かけて行く。でも、旅の準備をしていて、なんだかちょっと悲しくなってきたりもした。「自分は、何者でも、な い。」そんなことを思うのは、なんて勝手なんだろうと思った。こんな自分を本当に心配してくれる人もいて、その人たちの不安や葛藤を思うと、申し訳なくて悲しくなってきた。ごめんなさい。それでもやっぱり、俺は旅に出ます。

 たくさんの人に支えられているんだなぁって思う。出会ったことのない人さえ、心の支えになってくれたりする。

 ありがとう。一人じゃないんだって、気がします。

 それでも、今回の旅の原点は、自分は、何者でもない、というその思いなのです。その思いが、頭の中をグルグルと暴れ回って、血液の中を駆けめぐって、身体を、突き動かす。・・・。痛い痛い。でも、負けないぞ。

 

 自分は、何者でもない。