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「自分の木」の下で

 大江健三郎・著。朝日新聞社。何度も何度も、同じところを読み直しちゃった。すごくいい本だから、たくさんの人に実際に読んで欲しいなぁと思った。そして、大江さんが思うように、若い人に、これからどんどん大きくなる子供たちに、読んで欲しいなぁと思った。それで、定時制の学校では、教科書のかわりに使ってみたりもしているんだけれど。・・・。本当に読んで欲しい生徒は、やっぱりなかなか、活字自体に対する拒否反応があるのかなぁ。それでも懲りずに、ゆっくりゆっくり、授業で使ってる。大江さんも言っているように、あとで本を読みたくなったときに、そういえばそんなのもあったっけと、思い出してくれたらいいなぁって思って。

 人にはそれぞれ、「自分の木」と決められている木が、森の高みにあるんだって。人の魂は、「自分の木」の根元から谷に下りてきて人間の身体の中に入り、人が死ねばまた魂は、「自分の木」に帰っていくのだとか。そうしてたまたま、山に入って、知らずに「自分の木」の下に立っていたりすると、年をとった自分に会うことがあるのだとか。大江さんは子供の頃、おばあさんからその話を聞いて、もし年をとった自分にあったら、「どうして生きてきたのですか?」って、聞いてみたいと思ったんだって。不思議な話でしょ。さらに大江さんは、こんなことを考えるんだ。その頃からもう六十年近くがたち、実際に生きている自分が、年をとった自分なわけだけれど、じゃぁ今、私が「自分の木」の下に行ったらどうなるか。そう、子供の自分が待ちうけていて、「どうして生きてきたのですか?」って、問いかけるんだよね。

 その問いに答えるために、大江さんが若い読者のために書いたのがこの本『「自分の木」の下で』だ。子供たちのために書いたわりには、話があちこちに広がって、ちょっとまとまりがないような感じも受けるかな。それだけ、話したいことがまだまだあるんだろうなぁって、思った。

 もし、生きることに疲れて、あるいは大きな問題にぶつかって倒れて、もうどうなってもいいやなんて思ったりしている人がいたら、どうか最後まで目を通してみてください。「(子供には)取り返しのつかないことはない!」っていう大江さんの思いが、伝わってくれるといいなって思います。

 「どうして生きてきたんですか?」と子供の自分に尋ねられたときの、大江さんの返事が、本の最後に書いてあった。静かな秋の夜にこの本を読み終えて、ちょっと目頭が熱くなったりしちゃったよ。はは。